オフィスの「サグラダ・ファミリア」
あなたの会社には、いつまで経っても完成しない、あるいは完成した瞬間から古くなっていく書類がありませんか? そう、「業務マニュアル」です。
苦労してスクリーンショットを貼り付け、赤枠で囲み、手順を書き込み、分厚いファイルを作る。 しかし、翌月には使用しているソフトの画面が変わり、法律が変わり、担当者が変わる。 そのたびにまた修正作業に追われる。
これはまさに、オフィスのサグラダ・ファミリア。永遠に終わらない工事です。
私は中小企業の社長として、あえて強い言葉で提案したい。 「人間が読むためのマニュアル作り」は、もうやめませんか?
完成しないものに、社員の貴重な残業代を払う。 あるいは、利益を生まないその作業に、社長であるあなたの命(時間)を削る。 それは経営判断として、本当に「善」なのでしょうか。
「地図の暗記」か、「カーナビ」か
従来のマニュアル教育は、例えるなら新入社員に**「詳細な地図を渡して、目的地までのルートを丸暗記させる」**ようなものでした。
「ここの交差点を右、次の信号を左…」と、膨大な手順を人間の脳みそに叩き込む。 だから教育に時間がかかり、せっかく覚えた社員が辞めるたびに、経営者は「また一からか…」と絶望するのです。
しかし、AI時代の教育は違います。 「カーナビ(AI)の使い方」を教えるだけでいいのです。
「目的地(やりたいこと)はここだ。あとはこのカーナビに入力ボタンを押せば、ルート(手順)は勝手に出してくれる」
これなら、道順を覚える必要はありません。 道路状況(業務ルール)が変わっても、ナビのデータ(AIへの指示)を書き換えるだけで済みます。 人間の脳みそをアップデートする必要がないのです。
プロンプトは「動くマニュアル」
これからの時代、社内に蓄積すべき資産は「Wordのマニュアル」ではなく、「AIへのプロンプト(指示書)」です。
例えば、「お客様への謝罪メールの書き方マニュアル」を作るとします。 従来なら、「件名はこうする」「時候の挨拶を入れる」「経緯を書く」と事細かに解説し、人間がそれを読んで一から文章を作っていました。
これを「プロンプト」に変えるとどうなるか。
【指示】 あなたはベテランのカスタマーサポートです。 以下の【トラブル内容】をもとに、お客様の怒りを鎮め、信頼を回復するための丁寧な謝罪メールを作成してください。
【トラブル内容】 (ここに箇条書きで事実を入れる)
これをAIに入力するだけで、80点以上のメールが一瞬で完成します。 人間がやるべきは、手順を覚えることではなく、**「事実を入力し、最後におかしなところがないかチェックする」**ことだけです。
これまでのマニュアルは「読んで、理解して、動く」という受動的なものでした。 これからのプロンプトは「貼り付けて、実行すれば、終わる」という能動的なツールです。
この転換こそが、人手不足の中小企業が生き残るための「武器」になります。
「教育」という名の逃げ場所
ここから少し、厳しい話をします。 私たち経営者は、どこかで「人を育てること」を神聖視しすぎていないでしょうか。
社員と膝を突き合わせて語り合う。手取り足取り教える。 それは一見、素晴らしいリーダーシップに見えます。 しかし、利益というシビアな結果が出ていない時、**「でも、俺たちは社員と向き合っているから」**という感情論に逃げ込んでいないでしょうか。
中小企業における最大の「善」とは何か。 私は、**「会社を潰さず、利益を出し続け、社員とその家族の生活を守ること」**だと定義しています。
いくら熱心に教育しても、いくら人間的に成長させても、会社が赤字で給料が払えなければ、それは経営者として社員に対する「悪」です。
結果で愛するということ
「魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えよ」という格言があります。 昭和・平成の時代は、釣り竿の持ち方から糸の垂らし方まで、長い時間をかけて「釣り方」を教え込むのが正解でした。
しかし、令和のAI時代は違います。 「ここに最新の魚群探知機と全自動釣り竿(AI)がある。ボタンはこれだ。あとはお前が大量に釣ってこい」 と、最強の武器を渡すこと。
これを一見、「冷たい」「教育放棄だ」と言う人もいるでしょう。 しかし、その武器を使うことで、経験の浅い社員でも楽に成果が出せ、結果として高い給料を家に持って帰れるとしたら?
精神論で長時間労働を強いるのと、仕組みで楽に稼がせてあげるのと、どちらが本当の「社員への愛」でしょうか。
コンサルとしての、私の「異端」なスタンス
私はセブン-イレブンのオーナーとして24年間、泥臭い現場で数字と向き合ってきました。 「本部」という巨大なシステムと対峙し、そのルールの中でいかに利益を残すか、ギリギリの戦いをしてきました。
だからこそ言えます。 **「綺麗事では、飯は食えない」**と。
「立派な社会人になれ」という道徳教育は、家庭や学校の領分かもしれません。 企業の領分は、「うちのルールを守り、利益という結果を出せるか」。 このドライな境界線を引くことこそが、リソースの少ない中小企業が勝つための唯一の道です。
マニュアル作成にかけていた膨大な時間を、プロンプトの作成と検証に充ててください。 「人の記憶力」に頼る経営から、「AIの実行力」に頼る経営へ。
それができた時、あなたの会社は「人が辞めることを恐れない」、強く柔軟な組織に生まれ変わっているはずです。


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