その仕事、ただの「写経」になっていませんか?
「DXだ」「AIだ」と世間は騒いでいますが、その前に、御社の足元をじっくり見てみてください。 社員たちが毎日、必死の形相でパソコンに向かっています。
彼らは本当に「仕事(価値を生む活動)」をしているのでしょうか? それとも、紙の伝票や別の画面を見ながら、ひたすら文字を打ち込む**「転記(写経)」**をしているのでしょうか?
私は多くの中小企業の現場を見てきましたが、残念ながら後者が圧倒的に多いのが現実です。 なぜ、いつまで経っても「手入力」がなくならないのか。 今回は、その根本原因である**「マスタ(台帳)の不在」**についてお話しします。
「マスタ」がない会社の恐怖
「御社には『顧客マスタ』や『商品マスタ』はありますか?」
そう尋ねると、多くの社長は自信満々に「あるよ、Excelに入ってるよ」と答えます。 しかし、それを見せていただくと、それはマスタ(台帳)ではありません。 ただの**「過去の取引履歴リスト」**です。
ここには、経営者として背筋が凍るような「3つのロス」が潜んでいます。
1. 毎回「ゼロ」から手入力する時間のロス
見積書を作るたびに、過去のExcelをコピーするか、名刺を見ながら住所を一文字ずつ手入力する。 日報を書くたびに、自分の名前や現場名を手入力する。
これは例えるなら、**「蛇口から水が出るのに、わざわざ遠くの井戸まで毎回水を汲みに行っている」**ようなものです。 1回5分だとしても、全社員が毎日やれば、年間で数百時間の損失です。
2. 「表記揺れ」によるデータ崩壊のロス
手入力だから、人によって書き方がバラバラになります。
- ある人は「株式会社 吹田総業」と書く。
- ある人は「(株)吹田総業」と書く。
- ある人は「吹田総業 様」と書く。
人間が見れば同じ会社だと分かります。しかし、コンピューターにとっては**「全く別の3社」**です。 いざ社長が「この会社の年間売上を出してくれ」と言っても、検索に引っかからず、正しい集計ができません。 結局、事務員さんが電卓を叩き直すことになります。
3. 「最新版」が迷子になる管理のロス
Excelをコピーして使い回していると、古い情報のまま見積もりを出してしまう事故が起きます。 「先月、商品の単価上げたよね? なんで旧価格で出してるの?」 「すみません、前のファイルをコピーしたもので…」
マスタ(正解)がないから、誰も間違いに気づけないのです。
穴の空いたバケツを塞げ
これは、穴の空いたバケツで一生懸命水を汲んでいるのと同じです。 どれだけ社員が頑張って入力しても、そのデータは会社に蓄積されず、ザルから流れ落ちていくだけなのです。
AIを導入する以前の問題です。 まずは「正しいデータ(マスタ)」を一つ作る。 そこから始めなければ、どんなに高価なツールを入れても、ゴミデータが量産されるだけです。
次回は、これほど非効率なことが分かっていながら、なぜ現場は「Excel手入力」をやめたがらないのか。 その深層心理にある「麻薬」のような中毒性についてお話しします。
(続く)


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