【連載 第2章】本部と私たちは「交われない」。小売業の残酷な数式〜ブライアントを捨て、イチローになれ〜

コンビニ経営論

小売業の「3つの式」が示す残酷な真実

前回、自分の采配で売上が跳ねる「全能感」についてお話ししました。 しかし、24年という歳月は、私にある残酷な真実を突きつけました。

それは、「本部の成功」と「加盟店の成功」は、必ずしもイコールではないということです。

誤解を恐れずに言えば、私たちは本部と「寄り添う」ことはできても、決して「交わる(完全に利害が一致する)」ことはありません。 その理由は、小売業の利益を導き出す「3つの式」を見れば明らかです。

  • 式①:売上 = 客数 × 客単価
  • 式②:売上総利益 = 売上 × 粗利%
  • 式③:最終利益 = 売上総利益 - 経費(人件費・廃棄など)

「寄り添える」が「交われない」一線

本部は、私たちと「売上総利益(粗利)」を分配するビジネスモデルです。 したがって、本部が血眼になって追いかけるのは、式①と式②です。

「棚を商品でパンパンに埋めろ」 「欠品は悪だ。チャンスロスをなくせ」 「手厚い接客で客数を増やせ」

これらは全て、本部にとっては正義です。 棚が埋まっていれば見栄えが良く、お客様の購買意欲をそそり、売上(=本部の取り分)は確実に増えるからです。

しかし、私たち加盟店の生活がかかっているのは、そこではありません。 最も重要なのは、**式③(最終利益)**です。

ここには、本部が決して痛みを負わない項目が含まれています。 それが**「経費」**です。

棚をパンパンにするために出した大量の廃棄ロス。 手厚い接客のために雇った過剰なアルバイトの人件費。 これらは全て、加盟店の財布から出ていきます。

いくら売上が上がっても、それ以上に経費がかかれば、私たちの手元には一円も残りません。 「売上を上げろ」という本部の応援はありがたいですが、その裏で「経費」という出血が止まらなくなっても、彼らは止血してはくれないのです。

「ブライアント」から「イチロー」へ

かつて、近鉄バファローズにラルフ・ブライアントという選手がいました。 当たれば場外ホームラン。しかし、三振も驚くほど多い。 まさに「記録よりも記憶に残る」豪快なバッターでした。

昔のコンビニ経営、特に私が「全能感」に浸っていた頃のスタイルは、まさに**「ブライアント型」**でした。 大量に発注し、大量に売る。 読みが当たれば大ホームラン(大ヒット)。外せば大量の廃棄(三振)。 それでも、時代がイケイケドンドンの成長期だったから、トータルで見ればマイナスを超えていました。

しかし、今はどうでしょう。 市場は成熟し、商品は「茶筒型(一瞬で売れて消える)」になり、判断の難易度は跳ね上がっています。 この状況でホームランを狙えば、待っているのは「大量廃棄」という名の致命的な三振です。

今の私たちに必要なのは、ブライアントではありません。 「イチロー」です。

派手なホームランはいらない。 独自のバイアス(俺の勘)を捨て、データに基づいてコツコツとヒットを重ねる。 無駄な空振り(廃棄・人件費ロス)を極限まで減らし、年間を通して確実に高いアベレージ(利益率)を残す。

「攻めの経営」から「守りの経営」へ。 これは消極的な撤退戦ではありません。衰退期を生き残るための、計算し尽くされた生存戦略なのです。

「ノリ」で乗り切る時代の終わり

さらに頭が痛いのは、現場を取り巻く環境の変化です。

働き方改革や物流事情の変化により、発注から納品までのリードタイムは以前より長くなっています。 昔なら「明日の天気」を見て発注できましたが、今や新商品は翌週分を決めなければならないこともあります。 「来週の天気や気温なんて誰にもわからない」。 そんな不確定な未来に対し、より高度で研ぎ澄まされた「人間力」で立ち向かえと本部は言います。

しかし、それを誰にやらせるのでしょうか? 最低賃金に近い時給で働くアルバイトの彼らに、「経営者並みの仮説検証」を求めるのはあまりに酷です。

かつては「根性」や「ノリ」で通じた指導も、今の世代には通用しません。 彼らは非常に合理的です。 「廃棄になるかもしれないのに、なぜ大量に作るんですか?」 一見無意味に思える努力や、非効率な精神論に対して、彼らは冷ややかです。 そこに無理やりリソースを割こうとすれば、人は辞めていきます。

高度化する判断、長くなるリードタイム、冷める現場。 これら全ての矛盾を、「オーナーの人間力(気合い)」だけでカバーするには、もう限界が来ています。

人間力を磨くことは商売の基本ですが、物理的に無理なことは「文明の利器(AI)」を使って解決する。 そういった発想の転換がないまま、現場に「もっと考えろ」「頑張れ」と精神論を押し付ける本部の姿勢には、大きな疑問を感じざるを得ません。

ジリ貧のその先にある「甘い罠」

単価も客数も頭打ち。精神論ではどうにもならない。 そんな八方塞がりの状況で、真面目なオーナーほど「ある解決策」に救いを求めようとします。

「今の店で利益が出ないなら、店の数を増やせばいいじゃないか」 「1店舗で50万の利益しか出なくても、3店舗やれば150万だ」

単純な足し算。本部もそれを推奨し、「優秀なオーナーさんにはぜひ2号店を」と囁きます。 しかし、これこそが私たちをさらなる地獄へと誘う入り口だったのです。

次回予告

売上を上げるために選んだはずの拡大路線。 しかし、そこで待ち受けていたのは、本部のシステムが抱える「物理的な限界」でした。

次回、第3章。 **「複数店経営という修羅の道」**についてお話しします。 なぜ賢いオーナーほど、この罠にはまり、現場崩壊を招いてしまうのか。その構造的欠陥に迫ります。

(続く)

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