「良い人」であろうとして、地獄を見た
「従業員とは家族のような付き合いをしたい」 「俺の背中を見て、熱い気持ちでついてきてほしい」
経営者なら誰しも一度はそう願うはずです。私もそうでした。 2002年に夫婦でセブン-イレブンを始め、離婚を経験し、自殺未遂まで追い込まれながらも、現場の従業員たちに支えられて這い上がってきました。
彼らへの感謝は尽きません。だからこそ、私は彼らを「家族」だと思い、情熱を持って接してきました。 しかし、その**「家族的経営」こそが、後に私を社会的に抹殺しかける最大の落とし穴**だったのです。
「ブラックバイト」の汚名と、裸の王様
2010年頃、世間では「ブラックバイト」という言葉が吹き荒れていました。 そして、あろうことか私の店がその標的になりました。 「学生ユニオン」からの団体交渉申し入れ。NHKや朝日放送などのメディア報道。
「なぜだ? 俺はこんなに彼らのことを想っているのに」
当時の私は困惑しました。しかし、今なら分かります。 私は**「裸の王様」**だったのです。
熱心についてくる従業員(イエスマン)だけを可愛がり、ついてこれない従業員には「なんでこんなこともできないんだ」と厳しく当たる。 私の中では「頑張る子を評価している(信賞必罰)」つもりでしたが、客観的に見ればそれは**「エコヒイキ」と「パワハラ」**でしかありませんでした。
店舗が1つなら、私の目が届き、人間関係でカバーできました。 しかし、2号店、3号店と拡大する中で、私の「情熱」は現場に届かず、ただの「理不尽な圧力」として変換され、従業員の不満が爆発したのです。
本部は守ってくれない。「就業規則」だけが私を守った
この絶体絶命のピンチを救ってくれたのは、誰だと思いますか? 本部の担当者(OFC)でしょうか? いいえ、彼らは同情はしてくれても、責任は取れません。 私を守ったのは、**無機質な「文字(ルール)」**でした。
多店舗化を見据えて、たまたま社労士に依頼して作成していた**「独自の就業規則」**。 セブン-イレブンの標準ルールではなく、私の会社の実情に合わせた「法的な防具」です。
労働局のあっせんが入った際、この就業規則が決定的な証拠となりました。 「感情論」ではなく「ルール」に基づいて対応した結果、解決金は驚くほど少額(一桁万円)で済みました。
もし、このルールがなく、「俺の気持ち」だけで戦っていたら……想像するだけでゾッとします。
「冷たい仕組み」こそが、最大の「優しさ」である
この事件を経て、私の経営哲学は180度変わりました。 「人間力」に頼る経営は、必ず誰かを不幸にする。
社長が「情熱」で引っ張ろうとすればするほど、そこには「好き嫌い」が生まれ、組織は歪みます。 一方で、「データ」や「AI」、「就業規則」は冷徹です。 社長の顔色を伺うこともなければ、特定の人をエコヒイキすることもありません。
「あの人は社長のお気に入りだから許される」 そんな不公平感が一番、現場のモチベーションを下げます。
だから私は、**「人間が判断しない仕組み」を作ることに全力を注ぐようになりました。 シフト作成も、評価も、業務指示も、可能な限りデジタル(ルール)に置き換える。 一見「冷たい」と思われるかもしれませんが、「誰に対しても平等である」ことこそが、経営者が従業員に提供できる最大の「優しさ」**ではないでしょうか。
結び:社長は「熱」を捨て、「法」になれ
今、コンビニ経営はかつてないほど難しくなっています。 人手不足、最低賃金の上昇、複雑化する業務。 これを「気合」で乗り切ろうとすれば、必ず過去の私のような「事故」が起きます。
社長の仕事は、現場で声を枯らして応援することではありません。 従業員が迷わないための「法律(ルール)」を整備し、それを守らせることです。
私が推進する「泥臭いAI活用」の根底には、この痛切な反省があります。 あなたと、あなたの大切な従業員を守るために。 どうか「情熱」という麻薬に溺れず、「データ」という武器を手に取ってください。


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