はじめに:「ガラパゴス」という最強の褒め言葉
最近、ニュースで「日本はガラパゴス化したから負けた」という論調をよく耳にします。 世界の標準(グローバルスタンダード)に合わせず、島国だけで独自の進化をしてしまったから孤立したのだ、と。
私は、この言葉を聞くたびに違和感を覚えます。 いや、はっきり言いましょう。それは間違いです。
私はセブン-イレブンのオーナーとして、そしてかつてのものづくり職人として断言します。 かつての日本が世界を席巻したのは、「世界一強烈なガラパゴス」だったからです。
どこよりも顧客に執着し、どこよりも細部にこだわり、誰も真似できないレベルまで独自進化して「尖りまくった」からこそ、世界は日本にひれ伏したのです。
親会社を飲み込んだ「狂気の独自進化」
その最たる例が、私が身を置く**「セブン-イレブン」**です。
ご存知の通り、セブン-イレブンはもともとアメリカの「サウスランド社」が発祥です。 それを日本に持ってきた鈴木敏文氏は、アメリカのマニュアルをそのまま使いませんでした。 むしろ、アメリカ流の合理性を否定し、日本人の「異常なまでの品質へのこだわり」に合わせて、徹底的に**「魔改造」**しました。
- おにぎりの海苔をパリパリに保つための、複雑怪奇なフィルム包装。
- 鮮度を保つために、1日3回も配送する物流網。
- 「明日の天気」まで読んで発注を変える、単品管理という執念。
アメリカ人から見れば「クレイジーだ」「そこまでする必要はない」と笑われるようなガラパゴスな進化です。 しかし、その結果どうなったか?
日本のセブン-イレブンは世界最強の収益力を叩き出し、経営不振に陥った本家アメリカのサウスランド社を救済・買収し、完全に飲み込んでしまったのです。 「ガラパゴス(独自進化)」が、「グローバル(本家)」を食い殺した瞬間でした。
世界が嫉妬した「技術立国ニッポン」
かつての日本には、こうした「尖った技術」が溢れていました。
世界中がノキアの携帯電話を使っていた時代、日本の「iモード」だけは、はるか先の未来を行っていました。 「FeliCa(おサイフケータイ)」の、改札を0.1秒で通過する処理速度。これは世界標準のチップからすればオーバースペックな異常値です。
たかだか人口1億人の島国が、世界に対してインパクトを与えられていた理由。 それは、グローバルに合わせて角を丸くしたからではありません。 日本の顧客(現場)のために、恐ろしいほど鋭く「尖っていた」からです。
今、誰のために商売をしているのか?
ひるがえって、今の日本はどうでしょう。 今のセブン-イレブンに、かつてのような「狂気じみた顧客への執着」を感じるでしょうか? 日本の家電メーカーに、世界が欲しがるような「尖った技術」があるでしょうか?
答えはNoです。なぜか? **「見ていろところが違う」**からです。
ここ十数年、「グローバルスタンダードに合わせろ」という掛け声のもと、日本企業は変わりました。 しかし、その正体は**「株主資本主義に合わせろ」**ということでした。
ここに、日本の現状を表す残酷なデータがあります。 財務省の法人企業統計などを見ると、ここ10年〜15年の日本企業において、 「設備投資(現場への投資)」はほぼ横ばいであるのに対し、 「配当金(株主への還元)」は、凄まじい勢いで右肩上がりに増え続けています。
これが何を意味するか、現場の人間なら分かりますよね。 「現場の技術」や「顧客の満足」にお金を使わず、「株主の顔色」を伺うことにお金を使っているのです。
結論:株主を見るな、現場を見ろ
現場のリソースを削り、配当を増やして、それで生まれたのは何ですか? 「当たり障りのない、誰の心にも刺さらない製品」と「コモディティ化したサービス」だけです。
かつてセブン-イレブンが米国を飲み込んだ時、彼らは株主の方なんて見ていませんでした。 見ていたのは、「冷たい弁当なんて食えるか!」と怒る、日本の顧客だけです。
我々中小企業経営者は、この過ちを犯してはいけません。 「グローバル」や「株主」なんていう実体のないものに合わせる必要はない。 独自の技術、独自のサービス、独自のこだわり。 それを徹底的に突き詰めて、**「ガラパゴス」**と呼ばれるまで尖らせる。
世界が欲しがるのは「どこにでもある丸いもの」ではありません。 日本という島国で独自に育った、**「鋭く尖った技術」**だけなのです。
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