【第2話】なぜ現場はExcelを手放せないのか? 〜「曖昧さ」という麻薬と、社長が引くべき境界線〜

社長の着想日誌

前回の記事では、マスタ(台帳)がないことで起きる「手入力の悲劇」についてお話ししました。 では、解決策として「マスタを作って、そこから選ぶようにしましょう」と提案するとどうなるか。

現場からは、必ずと言っていいほど抵抗があります。

「Excelの方が使いやすいです」 「うちはケースバイケースが多いので、型にはめられると困ります」 「システム化すると融通が利かなくなる」

なぜ彼らは、あんなに非効率でミスも多いExcel入力を愛するのでしょうか? それは、Excelが**「真っ白なキャンバス」**だからです。

「ちょっとしたメモ」の心地よさ

Excelのセルは自由です。何でも書けます。

  • 名前欄に「鈴木様(※急ぎ)」とメモ書きを添えることができる。
  • 金額欄にまだ決まっていないからと「未定」という文字を入れることができる。
  • 勝手に行を挿入して、備考を長々と書ける。

この**「曖昧さ(自由度)」**は、現場の担当者にとっては非常に心地よいものです。 自分の裁量で、その場の空気を記録できるからです。 システム化されると、必須項目に入力しないと先に進めなかったり、数字欄に文字が入らなかったりして、エラーが出ます。 現場はこれを「不便だ」「窮屈だ」と感じるのです。

現場の「楽」が、会社の「死」を招く

しかし、経営者視点で冷徹に見てください。

名前欄に「(※急ぎ)」なんて文字が入っていたら、そのデータはもう他のシステムでは連携できません。 金額欄に「未定」という文字が入っていたら、売上集計で計算エラーが起きます。

現場が「曖昧さ」という麻薬に浸っている間に、会社全体では**「集計不能なゴミデータ」**が山のように積み上がっているのです。 「今回は特別だから」という例外を許容すればするほど、後工程(経理や経営判断)が地獄を見ます。

「自由」と「規律」の線引き

マスタを導入することは、現場からこの「心地よい曖昧さ」を取り上げることになります。だから抵抗されるのです。 しかし、ここでひるんではいけません。会社を守るためです。

ただし、全ての自由を奪う必要はありません。 重要なのは**「線引き」**です。

  • 規律(マスタ): 顧客名、商品名、単価など、絶対に揺らいではいけないデータは、マスタから「選択」させる。
  • 自由(備考欄): 「急ぎ」や「特記事項」などのニュアンスは、専用の備考欄に自由に書かせる。

この境界線を明確にし、**「曖昧さはコストである」**と断言できるのは、社長であるあなただけです。 現場の「やりやすさ」よりも、会社の「正確さ」と「スピード」を優先する決断。 それが、DXの第一歩です。

次回、最終話。 では具体的にどうすればいいのか? 「新たな入力作業」を発生させずに、マスタを整備する現実的な解決策をお伝えします。

(続く)

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