【連載 第3章】「複数店経営」という修羅の道〜賢いオーナーほど、なぜ「地獄」を見るのか〜

コンビニ経営論

ジリ貧のその先にある「拡大」という甘い罠

前回、これからの時代はホームラン狙いではなく、コツコツとヒットを重ねる「イチロー型」の経営が必要だとお話ししました。 しかし、現場の閉塞感は深刻です。 客数は頭打ち、単価も伸び悩み、経費は上がる一方。 「このまま1店舗を守っていても、ジリ貧になるだけではないか?」

そんな不安に駆られた時、多くの「賢くて意欲的なオーナー」が飛びつく解決策があります。 それが**「複数店経営」**です。

「1店舗で50万の利益なら、3店舗やれば150万だ」 「スケールメリットで人を融通すれば、効率も良くなるはずだ」

単純な足し算の論理。本部もこれを大いに推奨します。 「オーナーさんの手腕なら、2号店も必ず成功しますよ」 その甘い言葉に乗せられ、多くの仲間が拡大路線へと舵を切りました。 しかし、私は見てきました。その先に待っているのが、利益の増大ではなく、「現場崩壊」という名の地獄であることを。

本部のシステムは「多店舗」を許さない

なぜ、複数店経営はうまくいかないのか。 オーナーの能力不足? いいえ、違います。 最大の原因は、本部のシステム(ストアコンピュータ)の構造的欠陥にあります。

はっきり言いましょう。 セブン-イレブンのシステムは、「1店舗に1人のオーナーが張り付いていること」を大前提に作られています。

複数店舗をリモートで一元管理できるような、気の利いたダッシュボードなど存在しません(あったとしても実用的ではありません)。 A店の状況を見るにはA店に行き、B店の発注を確認するにはB店に行かなければならない。 結局、オーナーは一日中、店舗間を移動するだけの「巡回マシン」になり果てます。

物理的に体が一つしかない以上、オーナーがいない店舗は必ず管理が甘くなります。 システムが複数を管理できるように作られていない以上、それをカバーするのは「人の力」しかありません。

「スーパー店長」という幻想と、人生を預かる責任

「オーナーの代わりになる優秀な店長(正社員)を育てればいい」 経営書にはそう書いてあるかもしれません。しかし、ここには**「フランチャイズならではの残酷な罠」**が潜んでいます。

例えば、オーナーが50歳の時、25歳の優秀な若手(A君)を採用したとします。 A君はオーナーの右腕として懸命に働き、5年後の30歳で店長になり、さらに10年後、オーナーが65歳になる頃には、複数店舗を統括するマネージャー(40歳)に成長しました。

さて、ここで問題が起きます。オーナーが引退(廃業)する時、A君はどうなるのでしょうか?

普通の企業ならM&Aや事業承継で会社は存続し、A君の雇用も守られるでしょう。 しかし、コンビニフランチャイズは基本的に**「一代限りの権利」**です。普通の会社のように簡単に事業を売却したり、従業員にオーナー権をスムーズに譲渡できる仕組みではありません。

オーナーが店を畳めば、その瞬間、40歳のA君は放り出されます。 どれだけ現場で優秀でも、新たなオーナーのもとで「いちアルバイト」からやり直すか、職を失うしかないのです。

「今、人手が足りないから」「今、店を増やしたいから」 そんな目先の都合で正社員を雇い、人生を預かる。しかし、彼らの定年まで面倒を見切れるオーナーがどれだけいるでしょうか? その覚悟も出口戦略もないまま、安易に拡大路線に走り、人の人生を巻き込むことは、あまりに危険で無責任だと私は思います。本部はこのリスクを教えてはくれません。

私の実感として、オーナー自身の目が行き届く**「3店舗〜5店舗」が限界点**であり、それ以上を人に任せて拡大するのは、構造的にも道義的にも無理があるのです。

オーナー社会の闇:「店舗数」と「日販」のマウント合戦

もう一つ、拡大路線に走らせる大きな要因があります。 それは、オーナー社会にはびこる**「マウント合戦」**という闇です。

オーナー同士が集まると、必ずと言っていいほどこの空気が流れます。 「うちは5店舗経営している」「うちは日販(1日の売上)80万だ」

まるで、店舗数の多さや売上の高さが、オーナーとしての人格や能力の証明であるかのように語られます。 「たくさん店を持っている奴が偉い」「日販が高い奴が賢い」。 そんな短絡的なカースト制度が、オーナーたちの深層心理に深く根付いています。

しかし、これは自信の無さの裏返しではないでしょうか。 規模を拡大し、見かけの数字を大きくすることでしか、自分の価値を確認できない。そんな承認欲求の闇を感じざるを得ません。

私は断言します。 管理不能な5店舗をボロボロの状態で回し、数字上の売上だけを誇るオーナーより、たった1店舗でも、店の隅々まで目が行き届き、商品も従業員も完璧にコントロールできているオーナーの方が、経営者として遥かに優秀であり、素晴らしいと。

見栄やプライドで飯は食えません。私たちが守るべきは「オーナー仲間へのマウント」ではなく、自分自身の「生活(利益)」のはずです。

「本部への忠誠」という麻薬

それでも、複数店経営を目指すオーナーは後を絶ちません。 「頑張ってる感」をアピールし、本部の覚えをめでたくし、良い物件(パイ)を回してもらう。 まるで、鼻先にぶら下げられた人参を追いかける馬のようです。

「本部あっての我々だ」と滅私奉公する、真面目で馬鹿正直なオーナーほど、このレースにのめり込みます。 しかし、椅子(優良物件)の数は限られています。 限られたパイを巡ってオーナー同士で見えない圧力をかけ合い、疲弊していく。 そこまでして「本部の顔色」を伺う経営に、未来はあるのでしょうか?

「普通の店」が最強である

拡大路線が修羅の道なら、私たちはどうすればいいのか。 答えはシンプルです。 「拡大」を捨て、「深掘り」するのです。

これからの時代、コンビニに「感動レベルの接客」や「職人芸のような品揃え」は必要ありません。 そんな高レベルな要求を従業員に課すことは、時給に見合わない「罪」であり、離職の原因になります。

目指すべきは**「不快じゃない、普通の店」**です。

  • トイレが汚くない。
  • 店員が私語をしていない。
  • 欲しい商品が普通に買える。

これだけで十分、地域一番店になれます。 従業員の負荷を極限まで減らし、誰でもできる「定型作業」だけで店が回るようにする。 そのためにこそ、AIを使うのです。

次回予告

「本部は変わらない。だから、私たちが変わるしかない」 私はセブン-イレブンを愛しています。だからこそ、本部に依存せず、自分たちの足で立つ「自衛」の道を選びました。

次回、最終章。 「AIという自衛権を行使せよ」。 コンビニ業界というAI未開拓のブルーオーシャンで、私たちが具体的にどう戦うべきか。 25年目の「大人の割り切り」と、具体的な生存戦略についてお話しします。

(続く)

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